かくしごと(空色MIX)

webライターっぽい女のオタク気質ライフ。 ライブレポ、何かの感想、日常、思考整理。まずは素直な文章を。

『濡れゆく私小説』に仕舞い込むのは

indigo la Endの『濡れゆく私小説』を、眠る前の誰もいない部屋で聴くのが好きだ。

 

 

もともと川谷絵音の作る楽曲は好きで、ライブにも足を運んだことがあるが(3度ほど)
今作はやっぱり、ちょっと、ほんとうに名盤だと思う。
一枚のアルバムでここまで一貫して同じ物語を切なく美しく儚く描ける人って、きっとなかなかいない。

 

 

「この曲めちゃくちゃいいな」

ハッと曲のタイトルを見て、目を閉じ、世界観に浸る。

 

 

それを全曲分繰り返す。

 

いつのまにかアルバムの最終曲に辿り着いているのだ、ほんとうに。

 

 

 

誤解を恐れず言えば─その曲たちが本人の醸し出す雰囲気やバックグラウンドによってどこまでも複雑な説得力にあふれているのに、
それでいて現実離れしているハイレベルなフィクションとして成立しているのも面白い。

 

何より、こんなに心に寄り添ってくれる音楽、
理屈抜きに貴重で極上に決まっている。

 

 

 

今日はどんな日だった?

私は、あなたは?

 

 

気軽に聞ける人、聞けない人。

 

 

川谷絵音は、「聞けない人」の気持ちをいつでも丁寧にすくいとってくれるように思う。

 

強靭なメンタル?

ほんとうにそうかな。

 

 

 

どんな日だった?なにがあった?

 

聞けないまんま、歌を聴く。

 

 

 

あなたの音楽や色んなことに救われている夜の部屋や何色もの涙がたぶんいくつもあることだけは、知っておいてほしいんだ。

 

 

あのとき久しぶりに曲を聴いて、歌詞を読んで、自然に涙が出たのだからさ。

 

 

 

酷なことを言うけれど、
ミュージシャンの川谷絵音に対しては

「このままいつかの切ない恋を忘れないでくれ」
そう思ってしまうほどには素晴らしい才能と執着が、彼にはある。

 

はにかむ普通の男性としては、どうだろう。分からないけど。

 

すべてがフィクションであってもノンフィクションであっても、彼の内に秘めた高い芸術性を誰が否定できるだろうか。

 

 

 

曲順にも「確実に」意味を持たせていると思う。
どれだけ正直な私小説なのかと頭が下がるが、
ぜひこのままの、ストレートに設定された曲順で最後まで聴いてほしい。

 

私は曲順通り聴いて、並行して歌詞を読み、度肝を抜かれた。

 

 

 

なんで全部分かるんですか?

 

「ああいうとき」の気持ちが─

 

 

絵音にそう聞きたくてたまらなくなった。

 

 

 

恋の喜びと戸惑い、自信と不安、
そして、静かなあきらめと感謝。

 

 

なにより、『結び様』で終わるのが素晴らしすぎるんだよな。

 

 

好きなことにするか、

好きじゃないことにするか、

 

花占いで決めたいときがあるように

「わからない」ときもあるのだろうと思う。

 

 

 

濡れゆく私小説(初回限定盤)

濡れゆく私小説(初回限定盤)

 

Amazonのレビューもすべて(!)満点で、みんな高揚した感想しか口にしていない。

ホッとした。そうだよねえ。

このアルバム、めちゃくちゃいいですよね。

 

「絶対聴いてほしい」

「素晴らしいの一言。」

「買えばわかる」

「想像以上です。」

「なんていうか、ここまで完成度の高いアルバムは久しぶりです。買って良かったです。」

 

レビューのタイトルと一文を少し記載させていただくと、よく考えずに業者が依頼したようなサクラ感が出てしまうほどの絶賛。

しかしこれが全て「心からの称賛と興奮」の結果なのだから、川谷絵音は罪な人だ。

 

 

まだ「ほんとう?」と思っている方は、まずこのブログ内の視聴ボタンだけでも押してほしい。

 

花傘

花傘

アルバム1曲目の『花傘』。

美しい雨の日に聴きたいメロディー。

「恋しちゃったんだ」

1曲目の世界観にふさわしい恋のはじまりを予感させるのに、「さよならの雨がパラパラと降る予報です」と同時に歌われているのが 既に儚い。

でもまだ、どっちに転ぶか分からない恋愛を歌っているようにも思う。

恋をした自覚が芽生えたスタートライン。

まだどうとでもなるような、もう後戻りはできないような。

 

心の実

心の実

『心の実』

イントロから「あ、いい歌だ」と分かってしまうことに悔しささえ感じる。

80年代の音楽に影響を受けてきたらしい川谷絵音。特にこの曲にはどこか懐かしいポップスのにおいもする。

「もういっそ 恋しない」と歌いながら、「まあいっか」と思考を中断させたり、明るい迷いをさらけ出す。

だってまだ、2曲目だからね。

 

通り恋

通り恋

『通り恋』、これもアルバム序盤。

多くは語らない。サビのメロディーだけでも素晴らしい楽曲であることが伝わるはずだ。

 

 

ほころびごっこ

ほころびごっこ

『ほころびごっこ

これはぜひ歌詞を読んでほしい。

「慣れてない幸福の合図は似合わない」
「救われたことないから 救い方がわからない」

「まだ想像の範囲ですけど少しは望み持っていいの?どっち?」

「愛情ごっこで手を打とう」

よくこんな心情をきれいなスプーンですくってしまえるな、と 勝手に後ろめたささえ覚えてしまう。

 

 

砂に紛れて

砂に紛れて

『砂に紛れて』

サビのファルセットが心地良く、耳の中が甘くなる感覚に陥る。

「好きだよ 今日も独り言」の歌詞が胸に刺さる。

 

『秋雨の降り方がいじらしい』

こんな情緒的なタイトルを思いついた時点で、もうこの曲は「完成してしまっている」。

「この恋を流すのはもったいないよ」

「主賓はいつも雨 目立ちたがり屋」

indigoは青や雨が似合うバンドだと思っているが、特にこのアルバムの世界ではずっと淡い雨が降っているのだろう。

薄くぼやけた紫の景色を思い浮かべる。

 

 

 

YouTubeも紹介したいけれど、はてなの仕様が変わったのか埋め込みがうまくいかない。

 

YouTube

『小粋なバイバイ』は本人たちが一切出演しないMV。

歌詞がひたすらオシャレに生活の中に溶け込む姿が流れ続けていて、観ているだけで自分の感性レベルがとてもアップした気になってしまうし、

「恋心は小粋だから 簡単には終わりが来ない」

「泣き損がいつも嬉しいんだ」

自分では絶対に思いつかない言葉の組み合わせを見つけられるから、気持ちに名前をつけてもらえたみたいな喜びにも出会えてしまう。

 

 

 

YouTube

これは『通り恋』のMVなのだが、

「何故か他の人に教えたくないバンド」

「indigo聴きながら失恋できてる私は不幸せではなく幸せなのかもしれない」

というユーザーのコメントが秀逸だった。

 

indigoのYouTubeにはどうも文学的で短い中に本質が詰め込まれている「恋を知ってしまった」人のコメントが多く、開くたびに見入ってしまう。おそらく意識せず、狙わず、素直なままで文学的になってしまっている。それがとても切なく魅力的だ。

川谷絵音やindigoの音楽が好きな人は、どんな年代でも感性が豊かに「なってしまう」人が多いのかもしれない。

 

恐れずに想っていたいよね。

 

 

 

ほんとうは『結び様』の音源もオフィシャルで上がっているのだけど、ほんとうはその曲をいちばん聴いてほしいのだけれど、

これを先に聴いてしまうとアルバムを最後まで聴いたときの心地良さと切なさが半減してしまうので、載せません。

 

美しい映画のラストシーンをネタバレしてしまう気分になるから。

 

 

 

今日もまた、思いをすくって すくわれよう。

 

 

 

わからない感情を、自分の中だけでも覚えておきたいすべての人におすすめします。