12/14 スピッツがいる街はあったかいな。横浜アリーナライブ感想と一部レポ
なんと当日にチケットを譲っていただけるチャンスに恵まれ、睡眠不足など気にせず急遽横浜まで行ってまいりました。
まさか武蔵野の森に続いて横アリまで行けるとは!!高まる。ありがとうございます!
(▼武蔵野の森のエモさに浸った感想はこちら。セトリのネタバレなし)
武蔵野の森で「あの」最高セットリスト(仮にAパターンとする)は体験済みだが、この日は少しだけ違うセットリストBが来るであろうと予測をつけていた。
結果、やはりBパターン!
ああ……あのアルバムのあの曲、2曲コンプできてしまった……
どちらも聴けてしまって贅沢すぎる。
ネタバレせずにこの感動を伝えるのは難しいが、ううん、かなり昔のアルバムの曲とだけ記しておこう。
そう、『見っけ』のツアーではあるものの、他のアルバムのあんな曲まで聴けてしまうからこのツアーはおそろしいのだよ。もちろんとても良い意味で。
今回譲っていただけた席はスタンド北側、ステージを真正面から見つめ、見渡せる場所。
距離はあるが演出もバッチリ見られる良い席でした。
前回の武蔵野の森で「光に包まれ、幸せになってしまったあの曲」は演奏しなかったものの、「あの演出」に近いものは別の曲で体験できた。
この日は黄色い街が見えた。賑やかであたたかな街に星が瞬いていた。
セットが既にそういうコンセプトなのであろうが、スピッツというひとつの街に灯りがともり、きらきらと輝くイメージ。
星降る夜、あるいは小劇場で見るようなほっとする明かり。
暗闇のなかで一筋の光とあったかいスープとパンを見つけた気持ち。
客席の私たちは街の住人か、星の一部。
なんてまたもやエモい思考にふけっていたら、テッちゃんがMCでふたご座流星群の話に触れて、「今夜は流れ星が見つかるかもね」なんて話すから
ひとりで勝手にリンク感を楽しんだ。
昨日のスピッツは少年のようだった。
なんだかほんとうに高揚して楽しかったのか、
マサムネさんがいつもよりカッコいい口調になっていたように思う。
「後ろのほう、元気?オーケイ?」
「当日になるまで席が分からないというシステムにね、戸惑った方もいらっしゃるかもしれませんが。後ろのほうの方々にも届くように歌います。後ろの人たちには、きっと来年いいことがあります……」
序盤の話し方からノリノリだなと思っていたが、
「空調が暑いのかと思っていたけど、皆さんの熱気かもしれません。モイスチャー効果!」
「なんかね、楽しいです」
序盤以降も「今日への手応え」を口にし、
「いやあ……今日、“いい”よ。」
「このあたり(自分の前方をまあるく指して)に何か、フワッとした幸せのかたまりが見えます」
静かに興奮しながら無邪気に語るマサムネさんはほんとうに音楽とファンに真摯だ。知ってるけど。
「きっと今日のお客さん、誰かひとりでも欠けたらこの空気は出来なかったと思うので。本当に皆さんひとりひとりにお礼を言いたいです。ありがとうございます」
草野マサムネを嫌う人ってこの世にいないのではと思うしかない善意。
こんな言葉を聞いたら、「ほんとうにスピッツがずっと純真のまま音楽を続けていられてよかったなあ………」
とまた感慨に浸り、現実に感謝してしまいますよね。
そして、その景色の一部になれている私たちも、妙に誇らしくなっちゃいますよね。
テッちゃんが終盤「横浜ーっ!!」と叫んでいたのも驚いたなあ。ライブに何回か行けたことのある方ならその意味がわかると思うが、テッちゃんってほんとうに落ち着いた繊細な演奏と静かにバンドを支える姿がデフォルトというか
少なくとも、毎回恒例のように叫んだりはしないんですよね。
感情があふれだす衝動、嬉しいじゃあないですか。
☆
たしかに昨日は体感で、いつも以上に客席の「治安が良く」、「この夜を純粋に楽しみ、感謝していた」人が多かったように思う。
(きっと今日の横アリもそんな空気に満ちていただろう)
私がいた席前方では、ロキノン系の大学生ふう男子3人組が、MC中含めて一度も座らず
ステージにいる遠くのスピッツを、夏休みの始まりのようなワクワク感を隠さず眺めていた。
(背中の雰囲気だけでも分かるものです)
隣の席にいたお母さまと娘さんらしき二人組は、中盤までは着席し落ち着いてライブを観ていたものの
途中で高揚を抑えきれなくなったのか「母のほうが」立ち上がり、きらきらとした笑顔で彼らに向かって拳を突き上げる。
『8823(これぐらいはネタバレして大丈夫ですよね、テッパンということで)』では娘の手を取り、「一緒に盛り上がろう!」なまなざしを向け、娘も最終的には盛り上がりを隠さずに彼らに向かって手を振った。
お母さまはとても嬉しそうに笑った。
あれ?なんだか泣けてくる。
チケットを譲ってくださった女性もとてもいい方で、ライブ前にも話が弾み、ライブ後は一緒に食事をしながら好きな音楽やオタク気質の楽しさについて語り合った。
「スピッツが実在するかこの目で確かめます、泣いちゃいそうです」
「推しのライブ前には緊張してお腹が痛くなります」
最近は耐性がついてきたとはいえ全体的に分かりみがすごく、楽しい巡り合わせに感謝した。
(ほんとうに譲っていただいてありがとうございました…!)
客席でこんなふうに「その日だけのドラマ」がたくさん生まれていることをスピッツは知らないはずだけれど、もしかしたら届いているのかもしれない。
☆
「スピッツ、なんと32年やってます!」
それなのに、あんなに素晴らしい伝説のような歌唱と演奏を更新しているのに、
MCやテレビ出演時はいつもどこか不安げでぎこちなく、
「32年やっていてもこんなんですから、皆さん、大丈夫ですよ。」
成功も失敗も、みんなの人生をまるごと肯定するように笑う草野マサムネは、そろそろ「一生初々しく奥ゆかしいのにたしかな技術を持つプロフェッショナル」の代表として表彰されたほうがいいのかもしれない。
それにしてもライブ中毎回思うことだが、彼の歌声と喉の仕組みはいったいどうなっているのだろう。甘くて少しハスキーでツヤのある高音と完ぺきな音程。
昨日は珍しく個人の感想として一箇所ほどヒヤッとする歌唱があったが、むしろ人間味があって感動すら覚えた。だっていつ見ても危なっかしいシーンがほとんどないのだもの。
(テレビでの目に見える緊張は別として)
☆
「みんながアンコール呼んでくれていたのに、手違いでお客さんがほとんど帰っちゃって……2、30人になってしまった夢を、今でもたまに見るんですよ。」
この日のやり取りで特に心をつかまれたアンコールでの一コマ。
鳴り止まない拍手に応え、ツアーTシャツ姿ではにかみながら再登場したと思ったら、いきなりこんなことを話し出す32年目のベテランバンドがここにいるんですよ。
ああもうスピッツというバンドのまじめさを象徴するようなエピソードだと思います、これは。
そりゃあ「こうはく」などに出たら心臓がどうにかなってしまうだろうし夢でリハーサルから年越しまでを毎晩行って青白い顔をしてしまうだろうし無理しなくていいからね、と言いたくもなるし、Yahoo! のコメントでも似たような書き込みをいくつも見たのだから。なんでもないです。
☆
「いちばん最初に喋る特権を生かして、今日は『付き合ってはいけない男の3B』って、いつも崎ちゃんが話してることをね─」
「あと似顔絵ね。これもいつもテツヤが話しているけど、先にね。皆さん、今日はテツヤのまっさらな言葉が聞けると思いますよ」
グループいちばんの自由体質疑惑・田村さんがまさかの「他のメンバーのMCつぶし」で遊んだため、この日のメンバー紹介タイムは爽やかな動揺に満ちていた。
崎「えーっと……話そうと思ってたことが……(笑)あ、僕もそういう夢を、見るんですよ。もうステージに上がってるのに、ドラムのセッティングがまだ終わってないとか。あと衣装がひとりだけ用意されていなくて焦るとか(笑)。」
テツヤ「俺もなあ、先に言われちゃったからなあ……夢ね!俺も見るよ!なぜか、エアロスミスのステージに立ってんの(笑)。なのに何にも弾けないって夢。エアロスミスのメンバーが俺のことすっごい見てくるんだけど─」
田村氏の愛ある(たぶん)MCつぶしの術により、みんなが夢について話し出したのが可笑しかった。
田村さんってずっとファン目線を忘れない人なのだろうなと思う。もちろん自由に見えてさまざまなことを考えているリーダーで、でもやっぱりほんとうに自由だからバンドの楽しい空気感が持続するのだろう。そこがいいんだよ。
マサムネ「でもエアロスミスのメンバーになるってことは、いい夢なんじゃないの?」
テツヤ「いや、弾けないんだもん。キツいもんよ?」
マサムネ「ライブの夢はみんな結構観るんだけど、あんまりいい夢じゃないんだよね。うなされるみたいな(笑)。現実では楽しんでるんですけど。」
みんな笑いながら話していたけれど、ほんとうに日々計り知れない「今日だけのプレッシャー」と戦いながら彼らはここにいることを選択しているのだ。それを今さらながら思い知る。
だって不安な夢って、やっぱり現実にどこか不安があるときに見てしまうことが多いと思うから。
(私も仕事に追われているときは夢のなかでも仕事をしている。そしてあまりいい内容ではない)
そういえば先日aikoが「デビューして21年経つけど、何回も落ち込むし何回も興奮します」とツイッターで話していた。
ずっと活躍し続けている謙虚なミュージシャンたちの共通点を見っけてしまった気がする。
ただただ、いつでもその日限りの最高を届けるために、
プレッシャーに弱いからこそ努力を怠らず、真剣に音楽に向き合い続けること。
「好き」から逃げないこと。
それを当たり前のように続けること。
どうしたって好きだよなあ、そんな人たち。
そして、それは音楽だけではなくすべての仕事に言えることだから
また明日からがんばらないと。
自分の価値と実力に絶対的な自信を持っている人もとても頼もしいけれど、
自信がないからこそ準備と練習は人一倍で努力をし続ける人たちって
どんな職種を選んでも「光る」んだよね。絶対にさ。
やっぱりスピッツのライブは生活がシャンとするきっかけになるように思う。
☆
そう、夢の話の流れでテッちゃんが放った言葉が大好きだったので最後はそのくだりを紹介したい。
「2、30人しかいなくても、やりますよ」
「何人でも。たとえステージにいる人数より客席の人数が少なくてもね。」
この瞬間、ああ、なんてイメージ通りなんだろう!と笑ってしまった。
そして客席の半分以上がきっと同じことを感じていたのだろう、すぐに拍手が起こっていたのも嬉しかった。
彼らはきっとそう思っているだろうな、こんな台詞が聞ければいいなあ。
そう思っていた矢先だったので
答え合わせする暇もなく感動してしまった。
しかもそれを、普段は飄々としている素振りのテッちゃんが熱くきっぱりと口にするのが、なんていうのか、正解過ぎてありがとう。
スピッツは草野マサムネひとりの世界観で成り立っているわけではない。むしろおそらく精神的支柱でバンドの核であるのは、草野マサムネを囲む3人のメンバーの「揺るぎなさ」だ。
やっぱりスピッツは「この4人だから」ここまで来られたんだよな。
なんてバランス良く、なんて共通認識にブレのない、以心伝心テレパシー、
とにかくなんて誠実で愉快なバンドなのだろうと この一件でより強く思えた。
好きにならなかったら、きっとマサムネさん以外のメンバーのことは誤解したまま、よく知らないまま、いろいろな印象を決めつけてしまっていたかもしれない。
バンドはメンバー全員を「知ってから」が、より面白いんだよね。
そう、たとえ付き合ってはいけない男の3Bのなかに「バンドマン」が入っていても、バンドマンなくしてこの幸せな街の空気は作り上げられないのだから
バンドマンは、誇っていいと思うぜ。もちろん美容師さんも、バーテンダーさんも!
(客席にもいるであろうバンドマンたちに配慮して、「お互いがんばりましょう」なんてマサムネさんが話す一幕もありましたね。お互い、って軽く話しているけど咄嗟に出る言葉としてパーフェクトだし、ほんっとどこまで人を傷つけないんだか!表彰!)
☆
あったかい余韻はまだまだ続く。
スピッツという街はこれからもきっと繁栄し続け、人口も増え続けるだろうが、
どんなに大きくなっても、街の灯りのやさしさは変わらない。心からそう思えたライブだった。
またすぐに観たくなっちゃうよ、まったくもう。
☆
ちなみにマサムネさんの服装は黒ハットに白黒のバイカラーシャツだったのだが、
シャツの右半分は黒く、左半分は白。
心臓に近い場所に位置するポケットは黒。
そう、わかる人にはわかると思うが、配色が完全にSMAPの「モダスマ」ジャケットのそれだったので
SMAP好きな私は勝手に嬉しかったです。
(さらに言うと崎ちゃんも黒シャツに白ベストと、リンクコーデ状態だった)
かわいいグッズも見っけ。
ぬくぬくブランケット。手触りがすべすべした毛布みたいで、おすすめです。
スピッツもお客さんもみんな、あったかい気持ちのまま今年一年を終えられることを願いつつ
また明日から、がんばりますかね。